双子時代48

三白眼でしましょう

2012-07-11 22:39:00

「誰とやりたい?」

 ここは新宿歌舞伎町、明るい花園一番街、そこの一角。知人が経営する実家の押入れより狭いカウンターバーにて、見ず知らずの隣人(六十がらみのまちゃあき似のおっさん)がぼそっと言った。

「誰が、いい?」

 まちゃあきは言い直した。濁った目の先にはふやけたマスターのハゲ頭がめくれているが、俺に尋ねたようだ。五分前にアイドル話で盛り上がっていた。その延長の下衆な戯言など受け流せばいいが、ふっと笑った鼻とは裏腹に思わず考えてしまった。

 誰がいいってことじゃない。しいて言えばユナ。大概の男はそう答えるだろう。ユナ、世界共通の一軍レベル。外せない。嫌いと言う奴は目が膿んでいるか、似た女に騙されたか、はたまた嘘つき。

健全な男はまずユナにやられ、ティファニーに目移りする。あの臭い立つような色気は化粧だけでは出やしない。ティファニーだ!と思っていたが、一目惚れするようなインパクトこそはないが、レバーブローのようにじわじわくるのがジェシカ。エキゾチックな顔立ちじゃないのに、エロ意に混じったそんなフェロモンをそこはかとなく感じる――。

「ジェシカ」俺は呟いていた。

「ジェシカって、左?」まちゃあきはざっくり訊いた。

「左って?」

「こっちから見て」

「どっちから見ても誰かの左だろ、9人もいるんだから」

 そう、これは少女時代の話だ。

「9人? 6人増えたの?」まちゃあきは二段階、首を傾げた。

「は?」

「昔は3人だったのよ」

 ああ、おそらく少女隊の話だ。時代が違えば隊も違う。ミホにレイコに、誰だっけ。ちなみに俺はミホ派だった。周りはみんなレイコに夢中だった。すぐにやらせてくれそうな、単純な下の射幸心を煽る、あのあだっぽさにやられたのだろう。そんなことはどうでもいい。

「セイントフォーと合併したかぁ」それがいい、そうしろとばかりにまちゃあきはしみじみスコッチを舐めた。

 おまえは時が止まっているのか?

「しないだろし、したとしても二人足んないだろ」めんどくさいがつっこんだ。

「マナカナ」したり顔でおっさんは言う。

 もう何でもあり。

「あの子、マナっぽくない?」と壁のポスターを睨み、まちゃあきは続ける。至って真剣に。だが、そのポスターはKARAだ。

「あっち」俺は横目をトイレにやった。雑誌のふろくであろう少女時代のポスターがドアに貼ってある。

「ああ、やっぱりマナだ、あの左」まちゃあきは断じる。

 どうやらサニーのことを言っているようだ。マナっぽいって、カナっぽいってことだ。どうでもいいが。

「マナがぴんで頑張ってもカナの手柄になる」まちゃあきは嘆く。

 もうマナ、完全に少女時代の一員だ。

「その逆も、しかり!」乗りのいいマスターがもっともらしく口を挟んだ。

「双子はつらいね」と会話は逸れて広がり、ゴールデン街の湿った夜はふけてゆく*********************************************
 最終的にこうなった。

「双子時代48!」

 二十四組集めるらしい。一卵性のみ。

 売れねー……。

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