Godspeeed!

Godspeeed!

 夏、お盆になると電話がくる

 上京するときに付き合っていた彼女から

「帰ってますか」と

 東京で夢も彼女のこともすっかり忘れ、遊び呆けて自然消滅、数年たったある日にホスト仲間の悪友と、ふらっと京都に行ったとき、母からそう聞いた

 止まっていた物語が動き出し、焼けぼっくいに火などつかない

「電話してあげな」

 母から言われたができなかった。自然消滅といっても私が音信不通になっただけ。申し訳ない気持ちの後からくる決まり悪さのほうが大きかった

 当時、私は妙ちきりんな曲を自作自演して武道館なら分かるが、徹子の部屋に出るくらいの微妙な大口を叩いて上京したのであります

 応援してくれていた彼女に合わす顔がない。バンドも作曲もやめ、手っ取り早く稼げるホストにずっぽり浸っていた顔など見せられるわけがない

 焼けぼっくいに火はつかなかったが、何をしに東京に来たか、それは思い出した。帰るなりクローゼットで眠っていたギターを叩き起こし、錆びついた弦を張り替えたら指を切った

 あれから十数年たちました

 もう彼女からの電話はないけど夏になると思い出す。結婚して子をつくり幸せにやっているだろうか、人妻かぁ、などと想像を巡らせてしまう。子供好きで真面目な優しい旦那さんだといいな

 私は相変わらず飄々と漂い

 誰かを傷つけ生きています

「Godspeeed!」